地熱発電(マイクロバイナリー)

地熱発電の運用技術

遠隔監視

五湯苑地熱発電所並びに湯山地熱発電所の運転は、無人で行っている。発電機の運転に必要な各種データは、発電所内のキュービクルに集められGOT(グラフィック・オペレーション・ターミナル)と呼ばれる液晶端末に表示される。さらに同じ画面が、インターネット回線を通じて本社モニターにも表示され確認可能となっている。また監視用Webカメラを設置しているので発電所の様子が、パソコンや携帯の画面で確認できるようになっている。

日々の記録

発電機の発電端電力、温水・冷却水出入口温度などは、1分ごとのログとして発電機本体のSDカードに蓄積される。このデータは、発電機停止時にSDカードを抜くか、CSVデータとしてFTP経由で取得できるようになっている。これとは別に遠隔監視画面のデータを日々手書きで書き留めている。この地道な作業が結構役立っている。

 

不具合発生時の対応

発電設備に不具合が発生した場合は、関係者の携帯に警報メールが一斉に送信されるようになっている。早朝・深夜・悪天候を問わず突然の緊急対応は、大変なことであり日常の点検整備が重要である。

 

計画蒸気量と実蒸気量

計画時に測定した五湯苑の数値は、全圧:1,940Pa、静圧:340Pa、動圧:1,600Pa、温度125℃であったが、季節・気候(雨天時)・時間帯によって微妙な変動があり、特に寒い時期、朝方や雨が降った後は、温度(3℃以内)・蒸気圧が若干低い傾向が見られる。さらに経年変化として温泉に含まれる成分が泉源蒸気井内部に固着し徐々に蒸気圧が低下していくことは避けられない。スケールの固着に関しては、定期的な除去清掃を実施していくようにしている。
大規模な地熱発電所では、測定蒸気量の50%くらいで発電能力を計画することもあるようだが、小規模発電においても測定蒸気量より20〜30%少ない規模の発電能力で設備を計画・設計するのが妥当ではないかと考えている。

冷却水の水質

気化した作動媒体を液体に戻す凝縮器では、毎分4,000Lの冷却水が循環している。五湯苑・湯山では、冷却循環水の冷却塔内での蒸発や、煮詰まった冷却水を薄めるための希釈補給水として1日あたり約50tの冷却水を必要とする。発電容量にもよるが、大量の補給水が必要となるためバイナリ地熱発電にとって水の確保は、泉源に次ぐ重要なインフラである。
五湯苑地熱発電所では、湧水・山水を利用。湯山地熱発電所は、井戸水・表流水を利用している。
発電開始後6カ月を過ぎた頃から凝縮器での冷却水圧力損失(冷却水出入口の圧力差)が大きくなった。冷却水内に溶け込んでいるスケールの固着が原因であり、これにより発電能力が低下した。冷却水が蒸発することで水分中に溶け込んでいるカルシウムやシリカ成分が濃縮され導電率の数値が高くなり、スケール固着を促進させたことが原因である。


 固着の原因となる成分を抑制する薬液を注入し化学的処理を行ったが、年間で約150万円(税抜き、1発電所当り)の薬液費用が追加となり維持管理費に占める割合も高いため計画段階から予め組み入れる必要がある。
 また蒸発で煮詰まった冷却水の導電率を監視し希釈するためのブロー装置も必要である。ブローには1回約2.0Lの水が必要で、これを水道水で補給した場合ランニングコストが増加する。イニシャルコストとの比較を行い、十分考慮したうえで、水源を決める必要がある。

 

火山性ガス(硫化水素ガス)

火山性ガスに含まれる硫化水素や二酸化硫黄は、配線や端子に使われる銅を腐食させ発電機やキュービクルの故障・断線を引き起こすとてもやっかいな存在である。地熱発電にとって湿度の高い温泉成分ガスの存在は、避けられないことであり対策として当初腐食する恐れのある発電機装置内やキュービクル内に気化性防錆材を設置した。しかし予想以上に硫化水素ガス濃度が高く(300ppb)銅の腐食が進行しわずか1年足らずで発電機が故障し運転停止に至った。腐食性ガスを含む空気にさらさないことが有効との判断から銅帯へのスズメッキ処理やテープやシールによる密閉処理を順次行っている。今後は腐食トラブルを防止する対策が必要である。

 

その他自然災害への対策

留意しなければならない自然災害としては、大雨、落雷、地震及び火山活動などがあげられる。台風による土石流や土砂崩れなど設置場所の選定や設置方法などは設計段階で検討を要するものである。大分県は年間の雷日数が全国19番目で特に雷対策は施していないが、場所によっては避雷針をもうけるなどの対策が必要となろう。地震及び火山活動に関しては、地熱発電の性格上その影響は避けがたいが火山活動の影響による泉源蒸気量の変化は、発電の存否にかかる問題であり心配は尽きないが自然が相手である以上対応は困難である。地震についてもどのくらいの震度に耐えられるかは計画時に考慮しなければならないが、2015年7月に発生した震度4の地震に対する発電所の被害はなかった。

 

今後の課題

自然エネルギーの地産地消を目指して取り組んでいる地熱発電事業であるが、安定的に維持していくには乗り越えなければならない課題が多いのも事実である。
上記以外にも電力会社の買い取り価格や買い取り期間の問題は、事業の存続に関わることであり行政の更なる支援をお願いしたいところである。また夏場の発電出力低下や発電機のメンテナンス費用の問題を解決する上でも発電後の熱水を多段的にカスケード利用する具体案の研究なども探っていかなければと考えている。


 
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